危険な誘惑にくちづけを
 

 カラダから始まる略奪愛、とか。

 無理やり乱暴されても。

 一度カラダをつなげた相手なら、好きになる、なんて。

 アヤしい小説のお話みたいなことになるなんて、とても思えなかった。

 手始めに、わたしの唇から奪おうと、顔を寄せてくる佐倉君が怖くて……怖くて。

 思い切り、彼の胸を押して抵抗したのに。

 佐倉君は、びくともしなかった。

 ここが、人通りがほとんど無い、とはいえ道だから。

 誰かが通りかかれば、佐倉君は、キスを止めてくれるかもしれなかった。

 マナーモードにしていない、わたしの携帯が、紫音からの着信を受けて派手に鳴りだせば。

 佐倉君の気をそいでくれるかもしれなかった。

 けれども。

 どんなに祈っても、現実に、そんな都合よく助けなんて来るはずもなく………。

 佐倉君は、ほほ笑むと、わたしにくちづける寸前まで唇を寄せてささやいた。

「……ここから先は、春陽ちゃんからオイラにくちづけて?
 春陽ちゃんが、自分の意志で、彼氏を裏切るんだ……」
 
「……!」

 佐倉君は、何を言ってるの……!
< 103 / 148 >

この作品をシェア

pagetop