危険な誘惑にくちづけを
 そんな状況に。

「やっぱり、アンタ莫迦ね」って。

 佐倉君に向かって、大げさにため息をついたのは、水島だった。

「久しぶりの、日本なんでしょう?
 彼女がガッコに行っている時間に。
 ずーっと、こんな狭い部屋で待ってるヒトが、どこにいるのよ?」

「オイラだったら、待ってる」

「犬か? アンタは」

 佐倉君を切って捨てた後に、足でぐりぐりふんずけた水島は。

 わたしに向かって、にこっと笑った。

「……そんな顔してなくても、大丈夫よ。
 彼氏さんなら、きっとすぐに帰ってくるわよ!
 もちろん、待たせてもらっても、いいわね?」

「う、うん、どうぞ、入って。
 今、お茶を入れるから……」

 こんな。

 口は、悪いけど、とても優しい水島のコトが、好き。

 水島は、ぼーっとつっ立っている佐倉君を部屋に追い込んだ。

「何、そこで立ち尽くしてんのよ!」

「……やあ。
 なんか、憧れの春陽ちゃんの部屋に入れるなんて……!
 感動……って!
 桃花ちゃん!
 オイラの足、踏んでるし!」

 涙目で訴える佐倉君に、水島は、キレイ過ぎる笑顔で、キラリっと笑った。

 
< 44 / 148 >

この作品をシェア

pagetop