危険な誘惑にくちづけを
 

「……あれ?
 あらら?」

 水島と、佐倉君をせかして。

 一刻も早く、自分の部屋についたはずなのに……

 ……扉を開けても、紫音の姿がなかった。

 わたしが、学校に行った時のそのままに。

 しん、とした部屋の空気が、わたしを迎えてくれる。

「……紫音?」

 探そうったって。

 小さなキッチンと、ユニット・バス、トイレのほかは、絨毯を引いた、八畳の洋間ぐらいしか、ない。

 これが、いま。

 わたしの……心配性の家族から離れて暮らす、自分だけの部屋だ。

 紫音と出会うきっかけになった、猫のライムも、実家にいる。

 そんな、必要最低限のものしか置いてない部屋だった。

 ぱっと見たまま、いなければ。

 他に、ヒトなんか、探しようもなく……。

 今日は、特にどこかに行ってくる、なんて話を聞いてなかったわたしは。

 まだ他に、教えてくれなかった秘密があるんじゃないかって……心配になった。

「ねぇ、春陽ちゃん。
 その、自慢の彼氏は……?」

 にこっ、ていうよりは。

 にや、っていう感じで、佐倉君は、笑う。
 
 ヘタなウソなんて、つくんじゃないよって。

 あきらめて、オイラの彼女になったらって……

 ……わたしのココロに追い打ちをかけた。


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