危険な誘惑にくちづけを
「あら、ごめんなさい~~?
 ヤらしいコトを考えてるヒトは。
 少しぐらい足を踏まれても、痛くないのかなって」

「春陽ちゃんの前で、そんなコト言うなよ~~
 オイラ、変なコトなんて考えてないし。
 やっぱり、踏まれれば、痛いっしょ?
 ……フツウは」

「……佐倉君は、別」

「ぶ~~」

 佐倉君の大げさにほほを膨らませた顔が、何だか面白くて。

 わたし、今まで悲しかった気分が、少し晴れた。

 佐倉君は、水島にやられっぱなしでも、そんなに気にならないらしい。

 ぶーぶー言っている割には、にこにこと、されるままになっている。

「……やっぱり、アンタ、マゾ?」

「違うっ!」

 ……二人の会話は、楽しいなぁ。

 二人に紅茶を出しながら。

 そんなコトをしみじみ思っているうちに。

 ガチャガチャっとカギの開く音がした。

 そのとたん。

 二人とも、ぴたっと話すのをやめた。

 そして。

 わたしを含めた全員の視線が、開かれようとしている扉に注がれる。

 来た……!

 紫音が、帰って来たんだ!






 
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