危険な誘惑にくちづけを
 そう、言い切る佐倉君の強い瞳が、怖かった。

 ……彼は、本気だ。

「……だけども、オイラ。
 本当に、本気で春陽ちゃんのこと好きだから……
 これ以上、春陽ちゃんの意志を無視して、最後までイキたくなかったんだよ」

「……ウソ」

「ウソなもんか。
 やろうと思えば、今すぐにでも、何度でも。
 春陽ちゃんを、めちゃくちゃに壊すことが出来るし……本音を言えばヤってみたいよ。
 だけども……オイラ、春陽ちゃんと、そんな風に、結ばれたくないんだ。
 お願い、春陽ちゃん。
 オイラのコトを受け入れて?
 ……ココロから、愛して?」

 佐倉君は、わたしへの、届かない思いを抱えて。

 切なく、苦しい、と訴えた。

 佐倉君の言葉に、きっと、ウソはなかった。

 ……だけど。

 それは、佐倉君の都合でしかなかった。

 わたしのココロを無視した、佐倉君の想いでしかなかった。

 紫音が好きなわたしの思いに、他のヒトなんかが、入る隙間なんて、なかった。

 だけども、この状況で。

 ヘタなコトを言ったら……

 何をされるか、なんて、考えなくてもわかってた。

 
< 85 / 148 >

この作品をシェア

pagetop