危険な誘惑にくちづけを
 口で……指で。

 熱を容赦なく、かき立てられて。

 流されてしまいそうなココロを、必死に踏みとどめて、言葉を選ぶ。

「……あっ
 わたしも……無理にされるのなんて……いや」

「……そうだね」

 佐倉君が、熱い息を吐くように、つぶやいた。

「……だから。
 さっきみたいに言って?
 今度は、夢の中じゃなく、はっきり、オイラを呼んで?
 佐倉君……来てって、春陽ちゃんのその口で、言って?」

「………イヤ」

「春陽ちゃん!」

 わたしの、消えそうなほどのかすかな拒否に。

 佐倉君は、わたしの胸を噛んで、指を乱暴に動かした。

「う……あ」

 初めて感じる、痛みの刺激に。

 思わずのけぞった、わたしのカラダを抱きしめて、佐倉君は耳元でささやいた。

「オイラに……ずたずたに切り裂かれたいの?
 ……壊されたいの?」

「イヤ……違っ……」

 低い。

 感情の爆発を、ようやく抑えているような佐倉君の声におびえながら。

 それでも。

 なんとかこの場だけでも逃げきろうと、わたしは必死に言葉を探した。

 

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