危険な誘惑にくちづけを
「佐倉君のコト……何にも知らないのに……
 カラダだけの……関係になるなんて……イヤ。
 もっと……佐倉君のコト教えて?
 そしたら……
 今の彼よりも……佐倉君が……
 ……好きに……なるかもしれないのに」

「……春陽ちゃん」

 わたしのセリフに。

 佐倉君は、驚いたように、手を止めた。

「……それ、本当……?」

 もちろん、ウソだった。

 どんな話を聞いても、紫音だけを好きでいる自信があった。

 だけども。

 もしかしたら、この場をやり過ごせるかもしれない可能性に、わたしは賭けた。

 ここさえなんとかして、逃げ切ることができれば。

 これから先は、もっと佐倉君に注意して、隙を見せなければなんとかなるだろうし。

 それでもだめなら。

 学校の先生や……もしかしたら警察に相談してもいい、と本気で思った。

 だから。

 なるべく、佐倉君を刺激しないように、言葉を紡ぐ。

「佐倉君……風ノ塚先生の息子さんって、本当……?
 名字が違うなんて……
 ……とても……苦労したり……悲しいコトがあったんじゃない……?」

「……う」



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