危険な誘惑にくちづけを
「……機会は、またすぐできるよ。
 だから、今日はこれ以上、何もしないで帰ってあげる」

「ほ、ほんと!?」

 思わず、嬉しそうな声になってしまって、佐倉君は一瞬、不機嫌になったけれども。

 次の瞬間。

 佐倉君は、童話に出てくる悪い狼みたいな、ずるく、怖い顔になってポケットの中身をわたしに見せた。

「これなぁんだ?」

「……携帯電話?」

「そう。正解。
 じゃ、この声だぁ~~れ?」

 言って、佐倉君は、自分の携帯電話を操作して、その音量を上げた。

『ん……
 早く……来て……?
 わたし……あなたが
 欲しい……の』

 ……!

 な……なに、この声!

「わ……わたし……!?」

「そ。
 すっごく色っぽい声だねぇ~~?」

 佐倉君は、赤面モノの、恥ずかしい声が流れる携帯電話に軽く、くちづけた。

「他にも、春陽ちゃんのエッチな寝顔写真、いっぱい撮っちゃった。
 ……見る?」

「え……!?」

「オイラのお願い、ちょっとは、真面目に聞いてくれる気になった?」

「……!」

 驚いて声も出ないわたしに、佐倉君は切れ長の目を細めた。


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