天使になれなかった。
凛羽はあたしの前髪を優しく撫でながらポツリと囁くように言った。


「……しないよ」





セックスはしない変わりに髪を撫でてもらう。


こんなの初めて。

すごく変だ。




だけど、ふわふわした日だまりみたいに心地いい。

喘ぎ声はきこえない。

わずかに漏れる吐息と小さな雨音だけが耳をかすめる。

「……だって俺…」


凛羽があたしの瞳よりもずっと奥深くをみつめながら、何かを言いかけたとき玄関の扉がガチャリと開く音がした。

凛羽は瞬時に反応して視線をサッと扉のある方へとむけて、強ばった顔つきで扉をみつめた。
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