天使になれなかった。
「ごめん。今日は…もう帰って」


扉を見つめたままそう言い残し、何かにとりつかれたようにフワッと玄関のほうへいってしまった。

あたしは上体を起こして凛羽の華奢な背中をみつめる。

まだ前髪に凛羽の掌の温度が残っている。


凛羽が玄関に向かう足を動かす度にソファとの距離が離れてあたしの前髪に残った温度もジワジワと冷めていく気がした。


胃のあたりが急に痛みだす。

全身に焼けるような不安がつのった。



“待って!”




知らない誰かの声が頭のなかで響く。

あたし?


< 86 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop