不器用なLOVER
運ばれた保健室のベッドの上で、外から聞こえる体育の声に耳を傾ける。

音もなく開けられたカーテンから保険医の先生が入ってきた。

「少しは落ち着いたみたいね?」

起き上がらずに黙って頷く。

「過呼吸は極度の神経性ストレスによるものよ」

椅子に腰掛け脈を診る。

「睡眠不足もあるみたいだから、私はこの後出掛けて居ないけど、ゆっくり休んで行きなさい」



誰も居なくなった室内は静かで、時計の音が響いた。
目を閉じれば浮かぶ冷たい微笑み
意地悪く歪む男の顔
ニヤついた何人もの口元…

目を開けても耳に残る冷やかし囃したてる声…

洗っても洗っても落ちない感触…

そんな気持ちを唯一救ってくれる

「透弥さん…」

返せないままのブレザーを抱き締めることで今日まで頑張った。

けど…

それも限界かもしれない。

「会いたいよ…」

最後に抱き締められた優しかった温もりを離さないように必死ですがった。

「ふっ…」

私は弱い…
何度鳴咽の声を漏らしたのか。

「んっ…」

窓のカーテンが風で大きく揺れ、

頬に軽く触れて涙を拭い、
ゆっくり外に流れる。

それは窓下の壁を背に座り込む人の髪をも優しく撫でる。



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