三日月の雫
小さな声で、呟くようにして僕の名を呼ぶ柚羽の声。

僕は笑って彼女の頭を撫でた。



名前で呼び合う。

それは、簡単なようで、とても重要なことだった。


最初はぎくしゃくしていたけれど、何度も呼ぶうちに慣れてきて、僕たちの距離が縮まったような気がした。

このままずっと、君のそばにいられたら……。


だけど、時間が経つということは、朝を迎えるということ。


窓の外で新聞配達のバイクの音が聞こえてくる。


『朝イチでおいで』


そうかんなに告げたことを、その音で思い出す。



過ぎていく短い時間。

玄関で見送る柚羽を抱きしめたくなる。

けれど、今の僕にはまだ許されない。

そんな衝動を必死に抑えながら、僕は柚羽の部屋を後にした。

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