三日月の雫
会わないと、君を守るためと、決心したはずなのに。

今日で最後だと、何度も言い聞かせたのに。



いつもなら振り返りもせずに階段まで行くのに、僕はこの日初めて、柚羽の方を振り返った。



「……ありがとうね」



笑って言うと、柚羽は無言で静かに微笑んだ。



――ありがとう。


こんなにもいい加減な僕を好きになってくれて。

あれだけ辛い思いをしたのに、僕に会ってくれて。



そして、ごめん……。

好きだという自分の気持ちを最後まで君に伝えられなくて。

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