AEVE ENDING






「でも、お願いですから、ふたりの容体を!」

だというのに、この小娘は尚も食い下がろうというのか。

(…でも、今まで雲雀の容体しか尋ねてこなかった子達と比べたら、貴方は最高にいい子だわ)



「朝比奈、聞きなさい」

なにせ今までここを訪れた生徒達が口を突くのは、雲雀、雲雀、雲雀。

まるでオウムのように。


「…貴方の役目は生徒達を束ねること。東西合同セクションで二百名近い生徒を貴方一人で束ねなきゃならないわ。雲雀が回復するまでは、その重圧に耐えなきゃならない。…だから、今は戻りなさい」

とはいっても、雲雀のあの様子では二ヶ月もしないうちに復活するだろう。

ササリがキツく言えば、朝比奈がとうとう俯いた。
武藤が非難げな視線を向けてくる。

(…こどもにこんな目を向けられるなんて、損な役回りね)

今度は胸中ではなく、本物の溜め息を吐いた時だった。




ガコン…。

数日間、一度として解放されることのなかった治療室の扉が音を立てて開く。

血液の付着した白衣を脱ぎつつ、深く溜め息を吐いて現れたのは、ロビンだった。

奥を見れば、治療台に横たわる緑の布に体を覆われた倫子の姿。
雲雀は既に養生室へと移されたようだ。



「…終わったの?」

朝比奈達が口を開く前に、ササリが前に出る。
室内を見せまいとすぐさま扉を閉めたロビンの顔色は、酷く悪かった。

恐らく、倫子の胎内を見たのだろう。
やむを得ず、人類とはかけ離れた造りとなってしまったそれは、見て気持ちがいいものでもない。

(…人体に詳しいロビンなら、尚更だったわね)



「ロビン?」

放心しているロビンにもう一度、声を掛ける。
ぼんやりと上げられた顔には、疲労の色が濃い。


「…カツレツ、」

限界に達しているらしい。
流暢な日本語が怪しくなっている。






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