AEVE ENDING






「彼女の様子は?」

ゆるり。
震える蝋燭の火を見つめながら、秀麗な男は口を開いた。
ワインをくゆらせる彼と対峙するのは、柔らかなシルクを纏う美しい妙齢の女。

未だ完治しきらない傷が痛むのか、ベッドに腰掛け、ただぼんやりと夫の顔を見ていた。

「彼女…。今の状況では、該当者が二人いますわ」

艶やかな唇に苦笑を滲ませ、女は溜め息混じりにそう答えた。

妻の言葉、声。
そこに微量のやるせなさを感じ、男はくつりと喉を鳴らす。


「それは、皮肉かね?」

確かに妻の言う通りだ。
現時点の手駒としてある「彼女」は当然、アナセスと橘倫子、双方である。

そして、麗しい妻は嫉妬しているのだ。


ずっと昔から。

橘倫子を雲雀の身代わりに悪魔に差し出した時から、ずっと。




「そう聞こえたのでは、それは貴方自身の身に付いた錆のせいでしょうか」

あからさまに問いかけてきた夫に、妻は静かに返す。
その時点で全てを認めているようなものだと、彼は解っているのだろうか。


「…もとより、アナセスに選択肢はありませんわ。はじめからそのつもりで合衆国から招待したんですもの。合衆国側の意思がそれと相まっているならば、彼女はそれに従うしかありません」

国際交流を前提とした大規模なセクションはただの隠れ蓑に過ぎない。

こちらの思惑はなにより、もっと陰湿で卑怯な場所にある。


「雲雀さんは、目覚めたらしいね」
「もうひとりの彼女は、未だ昏睡の底だとか…」
「ならば好都合じゃないか」
「だからこそ、式よりも早く」

淫らな女の性を、女は持たない。

だからこそ、こうまでして冷静に画策できるのだ。




「雲雀とアナセス―――。両名の神の間に、聖なる子を」






悪戯に罪を犯す己を悔いて、贖罪を口にせよ。

神はいつでも自身の中に潜み自身の罪の深さに溺れている。


(逃れるな)

(はじめから、罪を背負って生きているのに)



(神よ、)






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