AEVE ENDING






「…め、」

小さく、吐き出された倫子の声に耳を傾ける。

なにか言いたげに震える唇は、伝えたいがしかし震えてしまい、それをうまくやれない。

だからアダムの能力をほんの少しだけ解放して、ノイズ混じりの倫子の台詞を聞き取った。



「…さわっちゃ、だめ」


それは、拒絶ではなかった。

漠然と沸き上がる得体の知れない感覚。



(―――守ろうと、してる)


明らかに、僕を。


(―――でも、誰から?)



わからないまま微動だにできずにいると、倫子がもう一度、後退った。

今気付いたが、驚いたことに倫子は裸足だ。

火傷を負っている筈の足裏が床を直に擦る音は痛々しい。

そうして倫子は穏やかさを少し滲ませた表情を作って見せた。


(―――泣いてしまう)

彼女の顔は確かに笑みを象っているのに、何故、そう思ったのか。

(だって本当は、笑いたくなんかないのに)

まるで無理矢理そう施された人形のようで。

被された仮面はあまりにも不出来で、笑みなのか泣き顔なのか形容したがたい。


けれど確かに、彼女は笑みを浮かべているのだ。



(僕を安心させようとしてる)

恐怖を、痛みを苦しみを抑え込んで、浮かべる笑みの意図は。

―――今にも飽和した涙が落ちてしまいそうでこわい。

皮膚を伝う彼女の波動は深い深い悲しみの海を思わせた。



鋭く、歪。


諦めを知る、その眼は。







< 1,045 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop