AEVE ENDING
「真鶸」
凛とした表情とは、裏腹な声。
すべての根底から産まれてきたような声色に、脅えるように肩を震わせた。
彼女はやはり、笑みを浮かべたまま。
―――眩しい。
(今にも、消えてしまいそう)
彼女はいつも、苦しみの縁に立っている。
「…真鶸、あんたはきれいだから」
それはとても、儚げで。
なにを伝えようとしているのか。
··
(なにから、僕を守るのだろう?)
堪えきれずに伝う涙は、何故そうまでして切実なのか。
―――何故、?
(…だからね)
「こっちにきちゃ、だめ」
そうして貴方はただ独り、罪を背負い醜悪の池に身を墜としてゆく。
「みちこ…さ、」
目映いばかりの清廉さで彼女は笑っていた。
今ここで離れたら、もう二度と彼女の笑顔を見れない気がして、だからこそ避けられる前に捕まえてしまおうと、床を蹴って―――。
「…だめだよ、真鶸」
触っちゃ、だめ。
それなのに伸ばした手は再び空を掴むだけ。
なにひとつ、手にできない。
彼女はまるで空気のように、床を跳ねた。
(まるで兄様みたいに)
その身軽さは、落ちこぼれと呼ばれる彼女のものとは思えない。
いいや決して、彼女は落ちこぼれなんかじゃなかった。
凛と前を見定める視線に。
しなやかに動く全身の筋肉に。
圧倒される、その活力。
―――そうして飲み込まれていく。
彼女の深く暗い底に。
「…汚れちゃうから、だめだよ」
誰よりも孤高の神が、此処に。
(誰から守るの?)
「あんたは、私に触っちゃ、だめ」
(自身から、僕を)
己の罪深さから僕を守るために。
穢れを移してしまわないように。
『―――もう、いやだ…』
涙が滲んでしまったのはきっと、「彼女」を見ているからだ。
浮かび上がるビジョンはいつだって、真実しか映し出さない。
『誰か、たすけ、て…』
懇願はいつから祈りになったのだろう。
苦しみはその小さな体の中を駆け巡り、出口もなくただ濃度を増してゆく。
『―――しなせて、』
彼女が他者へ与える慈しみが、いつか彼女の内へ回帰すればいい。
「よごれちゃ、だめだよ」
貴方はいつだって、優しすぎた。