AEVE ENDING






「…なんなんだよ、お前ら。たかが橘に、なにをそんなに」

嫌悪を吐き出した筈のロビンの唇が無様に震えたのは、倫子がゆっくりと顔を上げたからだ。

ざんばらの睫毛が瞬くこともなく、ロビンを見据える。

色のない、鋼鉄のような目玉に躊躇いはなかった。

雲雀と奥田の体に守られるように立ちながら、それなのに、強く、強く。




「―――…、」


呼吸が、停まりそうになる。

心臓に鈍い傷みを以て、一気に湧き出た罪悪感に目眩すら。

倫子から視線を外せないまま、そうしてその口が、動く。





「…あんたの言葉に、私は傷付かない」


睨みつけられたわけじゃない。
怒鳴られたわけでもない。

ただ静かに見つめられ、ただ静かに、すべてを見透かされ、諭されただけだった。


―――それなのに。





(なんで、こんな、悲しい)




―――慰められた。

空気を伝って皮膚に滲んでいく、凪のように変化のない哀愁。

虚無。




「……」

それだけ言うと、倫子は足早に踵を翻してしまった。

それに雲雀も続き、奥田は苦笑を漏らす。

裁きの回廊での、決別。




「良かったね、ロビンくん。神様は君の心をわかってくれたみたいだ」


かみさま?


「…な、に言ってんだ、あんた」

倫子の後ろ姿がどんどん小さくなっていく。
雲雀の後ろ姿も、同じように。

風が冷たい。



「偽りの神様は修羅より心優しくてね。だからこそ、怒らせたら怖い」

だから気を付けなさい。
君にあのバケモノの手綱はとれない。

そうしてロビンに虚しさと疑問と忠告を残し、白衣の男も消えた。



―――もう、呼び止めはしなかった。







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