AEVE ENDING
「…っ、」
思わずと言った風に女が歓喜に唇を震わせた。
その様は神の慈悲になんとか縋ろうとする醜女さながら。
反して男は、嗤うこともできず、ただわなわなと震えている。
まるで目に見えない恐怖に打ち震えているようで、それは端から見ても憐れだ。
一瞬にして期待と疑念が混じりあった空間で、それを引き裂く役目は。
「…まあでも、橘がこの先平穏に暮らすには必要ないかな」
まさに、それは希望を打ち砕く序章であったのかもしれない。
まるで本日の夕飯でも語るかのような気軽さで、断罪を。
命の天秤が乗ったそれは、呆気なく片方に傾いた。
「だから死ね」
やはり雲雀は雲雀だった。
―――その後の事後処理といえば、それはもう息吐く暇もないほど素早く行われた。
厳正を極める処罰に、容赦ない指示を飛ばし有無を言わせなかった雲雀の残酷で冷淡なそれに、周囲はその身を震え上がらせた。
雲雀自身が指揮したそれは、葬送曲だ。
邸宅を含むすべての財産に置ける真鶸への相続、政府機関に置けるふたりの地位権利剥奪。
つまり、雲雀の義父母、真鶸の実親は事実上、無一文の家なし、職なしになったわけである。
「一からやり直せば」
自分達にもたらされた状況を把握しきれていない二人を前に、雲雀はその一言だけを餞別に渡した。
着のみ着のまま「街」の外へと放り出された二人の消息はすぐに途絶えたらしい。
その報告を受けた雲雀は、しれっと「賊にでも殺られたんじゃない」と言い捨てた。
「…真鶸さんは、悲しまれるでしょうね」
箱舟へ戻る途中でアナセスがそう小さく漏らしたのを、雲雀はやはり無表情のまま聞いていた。