AEVE ENDING
「夜になると、雲のない空には星が見えるそうです」
空を見上げていた倫子に、真鶸が聞かせるとはなしに話始めた。
どんよりと厚い雲に覆われた夜空に、光はない。
「…星かあ。どんな風に見えるんだろ」
星がなんたるかは知っているが、見たことはない。
太陽も青空も、同じように何であるかは知っていても、見たことはなかった。
青空は希望に満ちた色なのだという。
それが頭上に広がっているだけで、生きる気力を与えられ、清々しくなれるのだと。
大袈裟な、とは思いつつ、実際に見たこともない人間がそれが正しいのか間違っているのかなど判断できない。
「星空はどんな風に見えるんだろうね」
星は、この暗闇の帳のなかで、人々を導く道標になるのだと聞いたことがある。
人々に休息を与え、方角を示し、季節を謳うのだ。
「改めて考えると、空って色んな顔があるんですねぇ」
真鶸が今思い至ったと、感心したように声を上げた。
本当にその通りだ。
この重い雲に覆われた世界でしか生きてこなかったくせに、空を見上げて憂いたりして。
「人の遺伝子に組み込まれているのかもしれませんね。空を見上げるという行為は、なんだか憧れに似ています」
詩的だなあ、と真鶸の言葉に返しながら、そうなのかもしれないと納得もする。
鳥も飛ばない空を人々が見上げるのは何故だろう。
真鶸が言う通り、雲を払ったそこに憧れがあるのだろうか。
それを見ることができれば、人々は今よりもっと幸せになれるのか。
「昔は、空も海も、それはそれは綺麗な色をしていたんだそうです」
桐生が守っていたのだろう、あの小さな青い海のように、以前は全ての海が美しく煌めいていたという。
そしてその青を映したかのように、空も青く、美しかったのだと。
(―――この有毒な雨ばかり降る場所が、本当にそんな美しかったのだろうか)
あの汚染されていない海を見ていながら、疑惑すら抱いてしまう。
それほど、世界は変わってしまった。