AEVE ENDING
「おくだぁ」
それを真正面に受けて、倫子は天性の抜けた笑みを見せた。
出来損ないの笑みばかり浮かべる大人に、見せつけるように。
「私、恨んでないよ」
それは免罪符ではなく、彼女の真実。
「…寧ろ感謝してる。私を生かしてくれてありがとう、奥田」
その一言。
その一言だけを奥田に捧げ、倫子は雲雀の手をぎゅうと握った。
「倫子……」
目を見開いて、みるみるうちに泣き出してしまいそうな表情を浮かべた奥田に、にやり、笑う。
優しくするのが下手くそな、不器用な彼が、「倫子」という「ニンゲン」を生かすことのできた、たった一人の人間だった。
(……罪の負い目なんか感じなくていい。アミを幸せにする役目が待ってんだから、ただそれだけを考えていて)
暗闇に貶められた私が、再び光のなかへ戻るための体をくれた。
命をくれた。
「アミを頼むわ、奥田」
そうして倫子が笑った途端、握った手を支点にゆるりと霞む二人の幻影。
それを認めた途端、アミが叫んだ。
「どこに行く気よ、このボケナス!」
類は友を呼ぶ。
力の限りそう叫んだ花嫁は、純白のドレスとは相反するガサツさである。
苦笑する奥田に宥められながら、アミは並々と溜めた涙をとうとう落としてしまった。
そんなアミを悲しませる余裕も与えず、倫子は声を上げて笑う。
「ちょっくら、スーパーマンになってくる」
その一言に、全員が首を傾げるはめになった。
倫子が口にした冗談めいた言葉の意味がわからない。
「家がない人たちが、毒のない安全な土地で、緑に囲まれて生きていけるように」
「皆が、美味しいご飯を食べれるように」
「子供達が綺麗な海で游べるように」
「―――雲雀に頼らなくても、青空が見れるように」
箱舟にいるだけでは駄目なのだと、倫子は言う。
狭い囲みの中から差しのべる手だけでは、足りないのだと。
「雲雀と色々なところをまわって、色んなもの見て、色んなことを、変えていって」
底抜けに明るく笑う倫子の顔が、ゆらゆらと頼りなくなってゆく。
青空に融けていくように、倫子と雲雀は既に遠い土地へと想いを馳せているようだった。