AEVE ENDING



見れば朝比奈の豊かな髪はべっちょりと頭皮に張りつき、濡れた背中にだらりと怪しげに垂れている。
足元の泥濘もひどくなり、それに足を取られる度、妙な倦怠感が身体を襲う。

(このままじゃ、無駄な体力を使っちまうだけだな)



「とにかく、この雨を凌げる場所に───」

そう言った時だった。
前を歩いていた朝比奈が、武藤の目の前から突然、消えた。

一瞬。

瞬いた次の瞬間には、そこに立っていた朝比奈の姿がなくなっていたのだ。

「───は?」

慌てて朝比奈が立っていた場所へ向かうと、真下に大きな穴が開いている。
真っ直ぐ真下へと伸びた底闇には光の欠片すら見えない。
土が盛り上がり、余裕で人ひとりが落ちるような、故意に掘られたらしい不自然な「穴」だった。


「…まさか、」

ここに落ちたのか。
膝を着いて中を覗いてみるが、やはり底は見えない。
落ちればたたじゃ済まないだろうが、朝比奈は腐っても西部が誇るアダムだ。
なんとか巧く着地していることを祈るしかない。

「ま、結構な間抜けは朝比奈も同じみたいだな」

雨に濡れた赤茶の前髪を払うように掻き上げると、武藤は深く溜め息を吐いて足元の穴に身を投じた。





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