AEVE ENDING




「わー…」

なに、この可愛い子。
奥田が狙っていた、というのもわかる気がする。

(…オヤジのどツボにどストライク)

―――しかし、せわしなく雲雀について回っていた朝比奈がぴたり、と動きを止めた。

「…?あさひ、」

こちらに視線を向け、赤く染めていた頬からは血の気が見る見る内に引いていく。

「…あ」

不味い、と気付いた時にはもう遅かった。

倫子の足元に横たわる男の無惨な姿に、朝比奈はあっさり気を失った。
前のめりに倒れる華奢な体に慌てて手をのばすが、横から出てきた逞しい腕に掠め取られる。

「…武藤」

見れば、朝比奈の弛緩しきった体を抱き上げる武藤の姿。

「なんだコイツ…。これに気付いてなかったんかよ」

これ、とは勿論、「死体」のことだろう。
武藤はゲーと吐き真似をしつつ、朝比奈を抱いたまま部屋の出口へと向かう。

「どこに…」
「部屋、出るだけ。こんな血腥いとこに寝かしとくわけにいかねぇだろ」

こちらを振り向きもせず、武藤は扉を潜りながら淡々とそう返してきた。

「あ、そか…」

言われて、妙に納得してしまう。

(女の子にはまずいか、やっぱり)

―――あぁそれなのに、麻痺しているのだろうか。

(…なにも感じないや)

鼻腔を埋める生臭い血臭は、慣れたりはしないとは言え、既に嗅ぎ知ったもので。

───嫌悪を。



「…あんた」

そのまま出ていくかと思っていた武藤が立ち止まり、肩越しに倫子を身遣る。
その片目は、酷く煩わしげで、暗く澱んでいた。

「よくこんなところにいて、平気だよな」


―――私のこの体はもう罪を厭わず、それを嫌悪と呼ぶならば。




(―――…言われ、た)

やはり、外れているのか。

どう足掻いても、私はあんた達に追いつけない。

責められたのかも、しれなかった。
武藤がなにを思ってそれを口にしたか、知らない。

知りたくもない。


「…橘」

武藤が出ていった扉を見つめたまま動かない倫子を、雲雀が静かに呼んだ。
まるで波の立たない凪のようで、それが逆に落ち着かない。


「…なに」

あぁ、情けない。
なにを動揺しているのだ。
あんなつまらない皮肉に、なにを。




< 181 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop