AEVE ENDING
「わー…」
なに、この可愛い子。
奥田が狙っていた、というのもわかる気がする。
(…オヤジのどツボにどストライク)
―――しかし、せわしなく雲雀について回っていた朝比奈がぴたり、と動きを止めた。
「…?あさひ、」
こちらに視線を向け、赤く染めていた頬からは血の気が見る見る内に引いていく。
「…あ」
不味い、と気付いた時にはもう遅かった。
倫子の足元に横たわる男の無惨な姿に、朝比奈はあっさり気を失った。
前のめりに倒れる華奢な体に慌てて手をのばすが、横から出てきた逞しい腕に掠め取られる。
「…武藤」
見れば、朝比奈の弛緩しきった体を抱き上げる武藤の姿。
「なんだコイツ…。これに気付いてなかったんかよ」
これ、とは勿論、「死体」のことだろう。
武藤はゲーと吐き真似をしつつ、朝比奈を抱いたまま部屋の出口へと向かう。
「どこに…」
「部屋、出るだけ。こんな血腥いとこに寝かしとくわけにいかねぇだろ」
こちらを振り向きもせず、武藤は扉を潜りながら淡々とそう返してきた。
「あ、そか…」
言われて、妙に納得してしまう。
(女の子にはまずいか、やっぱり)
―――あぁそれなのに、麻痺しているのだろうか。
(…なにも感じないや)
鼻腔を埋める生臭い血臭は、慣れたりはしないとは言え、既に嗅ぎ知ったもので。
───嫌悪を。
「…あんた」
そのまま出ていくかと思っていた武藤が立ち止まり、肩越しに倫子を身遣る。
その片目は、酷く煩わしげで、暗く澱んでいた。
「よくこんなところにいて、平気だよな」
―――私のこの体はもう罪を厭わず、それを嫌悪と呼ぶならば。
(―――…言われ、た)
やはり、外れているのか。
どう足掻いても、私はあんた達に追いつけない。
責められたのかも、しれなかった。
武藤がなにを思ってそれを口にしたか、知らない。
知りたくもない。
「…橘」
武藤が出ていった扉を見つめたまま動かない倫子を、雲雀が静かに呼んだ。
まるで波の立たない凪のようで、それが逆に落ち着かない。
「…なに」
あぁ、情けない。
なにを動揺しているのだ。
あんなつまらない皮肉に、なにを。