AEVE ENDING







北の島から箱舟に帰還した頃には、既に夜中を過ぎていた。

ミッションに参加した生徒達は重い体を引きずって各自部屋へと戻る前に、島で見聞きしたことは他言無用と、厳しく言いつけられて。

皆と同様に疲れた体を引きずる倫子の横で、雲雀は疲労の「ひ」の字も見せずにいた。


「…疲れた」

箱舟に着いた途端、緊張の糸が切れ、体が一気に重くなった気がする。
壁に手を付きながら歩く倫子の横で、雲雀は相変わらず無表情だ。しかしその毒舌は健在。

「それもう七回目だよ。いい加減黙ったら。耳障り」

素っ気なく言い放たれた一言に倫子は顔をしかめる。

(あんたの毒の方がよっぽど耳障りだっつの)

しかし言い返したりはしない。
帰りの船のなか、散々いびられ殴られ蹴られ死にかけを繰り返した倫子は学習したのだった。

つっかかった方が負け、ということを。

この厭らしいまでに意地の悪い男の相手をすればするほど、こちらの分が悪くなる。

(棘も毒も手を伸ばさなきゃ、刺さらないし冒されない)

悪態と反撃を口に出さなければ、それ以上いびられることもないだろう。
精神的に疲れ切った今の状態で、この男の相手をするのは無謀だ。無謀すぎる。

だから我慢だ、倫子。

こいつの悪魔のような口に騙されては駄目だ。

反応するな、倫子。

自分にそう言い聞かせれば言い聞かせるほど、何故か雲雀への苛立ちが増してゆくことが不思議だった。

(いや、明らかに被害者は私なのに我慢しなきゃなんないって…いや、駄目だって私、我慢しなきゃ負けだって。…いやでも、こいつのために我慢って、ちょっと不公平過ぎるっつか、いやだから、この我慢は我が身を守るために…)

ブツブツと頭の中で巡る自問自答はエンドレス。その間も膨らみ続ける不満。

そうこうしながら部屋の前にやっとこさ辿り着いた時だった。

「ブツブツ煩い」

ベシッ。
横に並んでいた雲雀に横っ面をぶん殴られた。しかも裏拳。

「……、」

鈍い痛みと共に倫子の怒りも限界を迎えた。




< 208 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop