AEVE ENDING
未だ引かない睡魔が深い深いところまで根を張っていた。
けれど、暖かななにかに促されるようにじわりと瞼が上がる。
―――あぁ、朝だ。
眩しい。
ブラインドもなにもない窓からは、容赦なく朝陽が射し込んでいる。
とは言っても、厚い雲を透かしての陽光だ。
だからこそ滲んで散乱して、眩しい。
「う、あー…」
横になったまま、欠伸をひとつ。
(…起き抜けの息ってくっさー)
倫子は女らしからぬことを考えて、ふと気付く。
体が重い。
息苦しい。
熱い。
なにこの三重苦。
「ん?」
未だはっきりとしない頭が、ゆっくりと今の自分の状況を把握する。
腰に、腕がある。
首を伸ばして見やった足元には、シーツに埋まる自分の足と、シーツの上に重ねるように伸ばされた、自分のものより大きいがほっそりした素足。
「…え?」
ちょっと待て。
醒めつつある脳で上を見上げる。
人の顎が見えた。
綺麗な線を描く鋭利な顎に高すぎないつんと尖った鼻、長く密集した睫毛。
うっすら開いた薄い唇に吸い込まれそうになりながら、艶やかな黒髪が覆うその麗しい顔を眺めた。
「なんだ雲雀か…。びびった。奥田にヤられたかと思った…」
とりあえず一安心である。
―――が、悲しいことに我に返るのは早かった。
ひばり?
「おいい!何してんだテメー!まさかの精神攻撃かよ!窓全開の仕返しがこれ!?おい!起きろ!」
べち、と雲雀のつるつるした額を平手打ちする。
「…ん、」
その衝撃に、緩く弧を描いた長い睫毛がぴくりと揺れた。
薄い唇がゆっくりと開き、並びの良い白い歯が色っぽく垣間見える。
ゴクリ。
「…って、ゴクリじゃねーよ!馬鹿か!っつかテメエェェ!さっさ起きろよ焼き鳥にすっぞオラァア!」
ベシリ。
爆睡する男を殴りながら、ひとり苦悩する倫子。
殴られた衝撃に、雲雀はやっとこさ瞼を上げた。
その潤った、寝惚けた眼が。
(──クソっ、やらしいな、こいつ)
雲雀の起き抜けの色気にひとり赤くなる倫子を余所に、雲雀の手がゆっくりと持ち上がった。
「?」
不可解なそれを、訝しげに眺める。
「───五月蝿い」
そして悲劇は舞い降りた。