AEVE ENDING
反する西部のアダムといえば、海面に浮いたヘドロに足をつけ、海水を媒体にして邪魔な遮蔽物、海底に沈んだ汚染物を除く作業に入っていた。
わざわざ汚い海水に浸かるのは、そうしなければサイコキシネスを液体に対して浸透させられないからだ。
それをしなくても作業を行えるアダムも西には居るが、それが出来る者が圧倒的に少ないというだけ。
西部の人間は、全員、表情が暗い。
(…そりゃそうだ。こんな共同セクション、西と東の差をまざまざと露見することにしかならない)
それを強行する理由が果たして在るのか、一介の私には解らないけど。
それに今は、そんなことを気にしてる場合じゃない。
一体、どこに行ったんだよ!
「―――アミ…!」
ひとり浜辺を駆け回る西部の女生徒を、一際小高い砂丘でチェスをしていた東部のグループが目で追っていた。
「あの西部の女、見てみなよ」
「なに全力疾走しちゃってんのかね、アレ」
「雲雀さん、ほら、見て下さいよ。あの西部の女」
数人の男子生徒が、チェス板を相手取り一人でチェスを進めている雲雀を見た。
黒のブレザーはボタンを外され、全開した前から覗く白いシャツ、今はだらりと垂らされた黒いリボンという寛いだ姿の雲雀は、視線をチェス板から外すことなくぽつりと洩らす。
「……アミアミ、って、さっきから煩い」
話しかけてきた男子生徒に答えたわけでもなく、誰かに聞かせるように口を開いたわけでもない。
雲雀のもとにかしずくように座っていた男子生徒達が、訝しげに首を傾げた。
「雲雀さん?」
「君たちも煩いよ」
顔も上げずに、雲雀は緩く言い放つ。その言葉に男子生徒達は従順にも静かになった。
そんな彼らに一瞥も寄越さず、雲雀はチェス板に駒を並べながら、先程から頭に響くノイズに意識を寄せる。