AEVE ENDING






『ねえちゃん』

お客さんだよ。
一番下の弟が、台所に立つ私にそう告げたのは春の始めだった。
春に咲くという美しい桃色の花は、地中の毒のせいで咲かないけれど――確か桜といった――春の空気を感じられる穏やかな日和。

田舎だからか、空気が柔らかい。

貧しい暮らしで、父と母は遠方での農業に家をあけがち。
実質的に弟達の面倒は、私がみていた。

金の代わりに、自分の畑で採れた僅かな農作物で物々交換をするような、些細だが落ち着いた柔らかな日々。

争いも少なく、穏やかな土地柄。
先の大戦で形を変えた山々はそれでも雄大に私達を見守り、暖かな風土がいまだ残る。

国の復興の手は未だ伸びないが、それで良かった。

幸せで、あったのだ。

少なくとも、大切なものが在った。




『───橘倫子さん…、でいらっしゃいますか』

黒服の男は言った。
居間には上げず、土間のある玄関に引き止めた自称政府の役人は、私を値踏みするように見ている。
背後から感じる弟達の不安げな視線。

『なんの用です?』

こう口にしながらも、予想はついていた。
一足早くアダムとして中央に収容された親友のアミに話を聞いていたのもあり、予想は、ついていたのだ。

『貴方がアダムであることが、当局の調査で判明致しました。現段階で発見されたアダムは全て箱舟に回収されるよう、国で定められています。詳細の後、承諾書にサインを』

長い口上の後、男は一礼して去っていった。


『アダム、ね……』


───尚、貴方が箱舟に無事回収された暁には、国からの支援枠への認定が許可されます。


『ご家族とお話し合いの上、指定した期日内に回収に参りますので』


拒否権はないのだ。
抵抗も許されない。

「アダム」とは、そういう扱いを受ける生き物だった。





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