AEVE ENDING





「…だ、」

倫子が雲雀の腰にしがみつきながら、ふと唸り声を上げた。
無意識に、睡眠を邪魔されないよう、顔を伏せて。

(…寝言?)

倫子の濡れた唇を乱暴に拭き取り、雲雀はじり、と眉を寄せた。
まだ夢から覚めない倫子は、むずむずと鼻を鳴らしている。


「おくだ、」
「…、………」

よもや先程まで自分が漁っていた女の口から別の男の名が飛び出るとは。

(…殺したい)

当然の心理である。

「屈辱的…」

まさしくその通りだが、倫子はただ夢の中でも相変わらずウザい奥田の名を呼んだだけであって、他意はない。

しかし雲雀がそんなことを知る由もなく―――。



「…邪魔」

先程まで確かに睦いでいた筈の倫子をベッドから蹴り落とし、雲雀は憤慨したままバスルームへと向かった。

倫子は再び床に放置である。


『こいつ、床に寝るとすぐ筋肉痛おこすからちゃんとベッドに寝かしてやってね』

奥田の声が蘇る。

それは。

(研究時の名残…?)

常人とさして変わらない身体能力。
だがその無惨な皮膚のように、全てに歪みを持っているのだろうか。

考えながらシャツを脱ぐ。


「……」

リビングから連続してくしゃみが聞こえてきた。

『あんた先に入れば。汗掻いてるし、風邪引くかもよ』

再び、くしゃみ。

(なんで、僕が)

下品に吐き出されるくしゃみが、耳障りだ。

(…あ、理由ができちゃった)

雲雀は不機嫌な顔を張り付けたまま、リビングに引き返した。
ベッド下で丸まっている倫子の右足を掴むと、そのまま彼女の部屋まで引きずっていく。
乱暴にベッドに寝かせ、ブランケットも掛けてやる。
もぞもぞと芋虫のように丸まった倫子は、くしゃみを止めた。


(世話の掛かる…)

嘆息。

再びすやすやと落ち着いた息を吐きだした倫子を眺め、雲雀はその場を後にした。




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