AEVE ENDING





「…どういう意味?」

雲雀の言葉に、自然と固くなる声が憎たらしい。

「君はまるで、人間そのもののようだから」

浸透するような視線。
それで、真っ直ぐ貫かれる。
それこそ、睨むわけでも哀れむわけでもない。

ただ、淡々と、見定める眼。


(…その眼、好きじゃない)

倫子が口を開き掛けた時、雲雀の背後に立つ生徒達がざわめいた。


「はいはーい、そこまでそこまでー」

あ、独身変態保健医、二十七歳。

「たきお…」

生徒達の壁から現れた男の名前を、アミが呼ぶ。
それは波音とざわめきに掻き消されそうな小さな声だったが、奥田は律儀に振り向いた―――馬鹿な男だと思う、本当に。


「アミ、大丈夫か?」

奥田に話しかけられて、アミははっと正気に返ったようだった。

「…先生には、関係ありませんから」

慌てて顔を反らし、奥田の言葉を受け取りもせず跳ねのけた。

(…馬鹿な女がもうひとり)

思わず、苦笑してしまう。
見れば、奥田の後から続々と教師達がこちらに向かってきていた。
ミスレイダーが転びそうになりながら走ってくる。
問題の中心に私が居て、心底焦っていることだろう。

「…雲雀くん、だったかな。君のお陰で我が校の生徒が助かったよ」

有難う、と。
おおよそそんな風には思っていないような笑みを浮かべて、奥田は雲雀を振り向いた。
雲雀はほんの一瞬、冷ややかな視線をつくり、しかし瞬きをする間にそれは微笑へと変わっていた。

「別に。バカをしでかしたのは、東のアダムだから」

言いつつ、けれど視線は冷たいまま。

ていうかお前、助ける気なかったくせにいけしゃあしゃあと。
もしあのまま放置されてたら、私もアミも砂浜でオープン処女喪失…。

(あ、アミは処女じゃなかった)



「へぇ…」

(君、処女なの)

憎たらしい笑みを浮かべ、奥田から目を逸らした雲雀が、私に一瞥をくれた。
しかも、余計なテレパス付きで。

「おいこらセクハラ野郎。腹立つ。シネ」

なんてムカつくんだ。
雲雀はにこやかな――それはそれは嫌味たらしい笑みを浮かべ、口角を上げたままシラを切った。

「言わせていただけば、君の態度の方が身にあまるよ」

冷ややかな視線は、白百合の花びらを伝う滴のような艶やかだ。




< 38 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop