AEVE ENDING





「だからこそ、真醍くんを島から呼んだんだよ」

押し黙る倫子の心中を思って苦笑しながら、奥田はちらりと真醍を見た。

「橘のお守り役ってか」

真醍がにいと強気な笑みを浮かべて奥田の言葉に頷くが、その語感が気に入らない。

「…おい、なんだその腹立たしい役目名は。せめて護衛とかさ、」
「どっちかっつうと守るなら雲雀の方がいいなぁ。雲雀のお守り役なら、風呂の手伝いでも食事であーんなんかもしちゃう」
「ホモザル!」
「にゃにをぉ」
「ぎゃ!」

騒ぎ立てながら真醍が背中にのし掛かってきた。
本当に動物みたいにじゃれるから、なにも考えずにじゃれ返してしまう。

真醍が豪快に笑いながら倫子の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜて、それはやがて大きな手でよしよしと頭を撫でるような仕草になる。


(あったかい…)

───もう、戻りたくないから。

(手放したくないな)

今、この暖かな世界を、私は手放せなくなっている。

(物言わぬ肉塊には、もう、戻りたくない)

あの深い闇には、もう。





「…仲いいね」

じゃれあう二人を前に、奥田が雲雀に小さく耳打ちした。

「馬鹿同士だからじゃないの」

雲雀はソファに腰掛けたまま冷ややかに言い捨てる。
この下世話な保健医がなにを仕掛けているかくらい、考えなくてもわかる。


「いいの、放っといて」

きみのだいじなおもちゃがあそばれてるのに、きみいがいのおとこに。


「…別に、僕には関係ない」

言い捨てれば、奥田は笑みを漏らす。
含むようなそれに、雲雀は目尻をゆるりと引き上げた。


「愉しみだよ、この先がね」
「先なんてないよ、なにも」

あるわけがない。


「君は聡明なアダムだ。強く美しく、気高い。だからこそ、君が気付かないわけがないのに」


───自身の出来損ないに、ごく自然に手を差しのべるようになっていることに。


「認めないのも構わないけどね。第三者としては、面白くって仕方ないから」

美しい眉間に寄せられた皺に、奥田はさも可笑しいと言わんばかりに笑いを吐き捨てた。
未だに繰り広げられている二人のじゃれ合いを止めながら、奥田は出来損ないの微笑を張り付けたまま。





―――暗闇の空の雲は、相変わらず晴れることはない。







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