AEVE ENDING
寝息を立て始めた雲雀に拍子抜けした。
(まさかこんな無防備な姿を晒すとは思わなかった…)
眼下の雲雀はこちら側に顔を向ける形で眠っている。
指先で撫でる前髪は柔らかくしめやかで、その色は以前、各地に生息していたカラスという鳥のように真っ黒だ。
綺麗に整った顔は、どうしたって崩れない。
(───見て、みたいな)
この甘美な表情が崩れるところ。
(笑みではなくて、悲しみと、後悔…)
歪んだ表情は、それでも綺麗なのだろう。
歪んで、歪んで。
───堕ちてゆく。
考えて、自嘲した。
「神」にそれを望むのは罰当たりだ。
(一体、私はどうしたいの)
雲雀に惹かれている。
雲雀をめちゃくちゃに傷付けたくなる。
雲雀に、悔い改めることを望んでいる。
(…悪いのは、雲雀じゃないのに)
外のぼんやりとした灰色の明るさに掌を翳せば、皮膚の凹凸が光を反射して線として浮き出る。
右腕は未だ、動かない。
(この体は、雲雀が与えたものじゃない)
傷も痛みも記憶も、なにもかも。
だから雲雀を怨むなんて、お門違いだ。
(でも、…それでも)
今までずっと、心のどこかで焦がれてきた。
この高みに立つ男が自分の犯した罪に苛まれ、墜ちてゆくところを。
(この男に限って有り得ない……)
───有り得ないのに、どこかで望んでいる。
犯した罪など雲雀にはひとつもないのに、全て押し付けてしまいたくなる。
(それなのに)
「さよなら、…したくないな」
雲雀という男を知らないまま、めちゃくちゃに壊してくれたらよかった。
(そうしたら、こんな半端な気持ち、知らないで済んだのに)
憎らしい。
けれど、―――愛しい。
愛しさに似たものを感じる力強さと、それから確かな優しさを。
(…それを前に、どうすればいいのか解らない)
この額を撫でる仕草さえ、本来ならば赦されないもの。
滑らかな肌を、歪なこの肌が傷付けてしまいそうで。
(赦すなよ…、頼むから)
弛緩した肢体を抱き締めて、抱き締め返されて、赦して、と泣いて。
(生温い)
馬鹿みたいに、甘い。
「赦すなよ、…頼むから」
縋りたくなるから、泣きつきたくなるから、醜態を曝したくなるから。
―――だから。
「…おやすみ、雲雀」
せめて今は、いいえこれからも、貴方だけは、美しく幸せで、在って欲しい。