AEVE ENDING
「今、何時なの」
「夜中の二時」
「……」
あぁ、もう…。
「こんな時間に男に付き添ったりして、馬鹿じゃないの」
散々、遊ばれて泣きじゃくったくせに。
雲雀がそう告げると、倫子は両眉を上げて肩を竦めた。
その軽薄な態度がムカつく。
「私を女と見てない男を警戒してもね」
(…女として見てなかったら、じゃあどうしてあんな仕打ちができると思ってるワケ?)
男であることを楯に、女の橘を押さえつけたのに。
(もう、忘れたっていうの)
―――馬鹿だ。
「ひばり?」
肌を往く指の凹凸を、額の皮膚が敏感に感じ取る。
施術の痕。
憐れな橘。
『恥ずかしい…、』
痛々しいまでに身を丸めて、その醜い体を恥じていた。
(馬鹿は、僕か)
それを所有したいと思うのだ。
傷付くのも涙するのも全て、この手ひとつで支配できたらと。
───願っている。
「…双子の声がした」
雲雀が瞼を閉じたまま口を開けば、顔の上で驚愕した気配を感じ取る。
「…寝たかと思った」
(眠れるわけがない)
「もうすぐ、って言ってたね」
倫子が神妙な声を出す。
もうすぐ。
『僕らの、神様』
そして、求めていた。
「雲雀を、欲しがってる」
沈みながらも、落ち着いた声が瞼に降り注ぐ。
まるでそれは、息を潜めて嵐を危惧する、小鳥のように。
「心配してるの」
気付いたら、そんなことを口にしていた。
馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
「…心配したら悪いわけ」
「必要性が感じられない」
「そーゆー事じゃないじゃん…」
(じゃあ、どういう事なの?)
とは、口にしないであげた。
きっと彼女は戸惑うだろう。
(僕なんて知らずに、ただ憎んでいられたら楽だったろうに)
それなのに眼を逸らそうとしないから。
真正面から、ぶつかってくるから。
「雲雀、」
意識が遠のいていく。
彼女の暖かさに、揺るがされてしまう。
他人を前に無防備を曝すなんて愚の骨頂に過ぎないというのに。
「おやすみ…」
優しい指も声も、要らない。
(橘から僕に与えられるものは、心地良い悲鳴だけでいい)
───それなのに。
その柔らかな指に後押しされ、ゆるやかな眠りに落ちてゆく。
いっそ詰って泣き喚いて殺すために向かってくればいいのに。
そうすれば、容赦なく切り棄てることができるのに。