AEVE ENDING
(…でも、あの雲雀がベッドを提供してくれたことは奇跡だな)
散々痛ぶられた後、雲雀の匂いが染み着いたシルクに顔をうずめる。
(なにこの感触…。さすがシルク…そういえば戦前はシルクロードなるものがあったらしいけど、あれ、ミルクロードだっけ?え、牛乳?生乳…の、道?)
「…その馬鹿な思考を朝っぱらから流さないでくれる?頭が腐りそう」
「…読むなよ」
「ほら、早く退きなよ」
革靴が近づいてくる。
でも、動きたくない。
―――だって。
「のどがいたい」
俯せで喉が抑えられていたせいか、更に声は低くがなる。
「あんなもの飲めば、当然そうなるでしょ」
倫子の顔の真横に、雲雀がゆっくりと腰掛けた。
静かな気配、穏やかで柔らかい。
(…探るつもり?)
「あんなもの…、ね」
あの汚水。
醜い汚水。
その異臭を嗅いだだけで嘔吐をもよおす、人体に害を与えるしか脳のない、死んだ水。
それを嚥下した姿を、見られた。
「…、雲雀」
あんたは、なにを思ったろう。
「なに」
雲雀の指が伸びてくる。
たっぷりと墨を吸い込んだ筆のような髪束から落ちた滴が、シルク上に伸ばした倫子の腕に滴り、伝う。
近付く。
瞼を閉じていても、わかる。
「雲雀」
痛む喉を更に焼いて、その名を呼ぶ必要性が、どこにあるだろうか。
「雲雀」
その名は、私を苦しめるしかないのに。
「……なに、」
その冷たい応えを、私は望まないのに。
(何故、繰り返す?)
「サヨナラ、だね」
「…知ってたの」
うん。
───昨日、浜辺に向かう前、奥田の部屋に寄ったその時に。
『大陸からやってくるアダムが、雲雀くんのパートナーになるそうだよ』
笑って。
にやにやと、不愉快な笑みで。
『良かったね、倫子』
───彼から、離れることが、できて。
そう嗤った奥田を、気付けば殴り飛ばしていた。
どの口がそう言うのか。
そんな怒りじゃ、なくて。
(何故、)
ねぇ、何故、そんな真似をしたのか。
(雲雀と、離れる)
ねぇ、解らない。