AEVE ENDING







このまっさらな世界であなたとわたしはひとりきり、ふたりきり。


(ねぇ)

その深く浅い意志の奥で彼の人はなにを思うだろう。

欲と罪にまみれたこの不実の果実から滴る蜜に、その熟れた舌を伸ばして。


(あぁ、どうか)

同じ罪を共有し、味わい、痛み、そして隣に在るための赦しを。


(―――神様)

この憐れな貴方の息子を、どうかお救い下さい。

涙などというたゆたう覚悟は必要ない。


(怨んでいる)

そう、だからこそ。

(その細く淡い首に指圧を与え、気道を狭めてじっくりと時間をかけて)

そうして僕は、憐れな彼女を愛でていく。










(…雲雀)

あぁ、随分と懐かしい声がする。

(雲雀)

なに、そんな馬鹿みたいに嬉しそうな声出して…、気持ち悪い。

(ねぇ、雲雀)

うるさい、…橘。

(起きなよ、朝だよ)



「…、」

あぁ、珍しい。
橘が僕より早く起きてるなんて。

(今日も猫まんまを食べよう)

またそんな味気ないもの食べるの。
本当に相変わらずだね、橘。





「……り、雲雀、朝」

舌足らずな声がする。

「……」

その声に意識が促され、雲雀はまだ重い瞼を緩慢な動きで持ち上げた。
雲に散乱した柔らかな陽射しと、暗闇色に光る髪が視界を埋めている。


「…あぁ、」

―――君か。

とは、声にならなかった。
無意識に、声にしないようにしたのかもしれない。

まるで、そこに実在する人物以外を望むような、言葉を。





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