AEVE ENDING
「朝、起きる」
拙い日本語故に敬語ではないことが癪に障るが、ベッド横に立つ人物は日本人ではないので仕方なかった。
―――「彼」。
肩まである長髪を右耳の上で緩く結い、すっと通った鼻筋が美しい、純白の民族衣装に身を包む男。
名を、鍾鬼。
数週間前、この西部箱舟へと留学してきた中国国籍のアダムである。
「起きろ、朝飯の時間だ」
その精悍な顔立ちから拙い言葉が紡がれる違和感には、この何日かでやっと慣れた。
(ペアを組んだ当初は、殺したくなるほど癇に障ったけど)
しかし、数回のセクションの課題をなんなくクリアしてきた様を見れば、やはりかの大陸で名高いアダムなのだと改める。
その能力は未知数。
しかし、強力で無駄がない。
精錬された太刀筋を思い描くような、対峙した時の狂気。
一度組み手をした際、その殺意に当てられ、本気で殺しそうになったくらいだ。
(この僕と引けを取らないアダムは、彼が唯一だろうね)
あの雲雀にここまで言わせるほど。
この箱舟に滞在してまだ数週間ではあるが、他の生徒達から羨望と嫉妬の目を向けられている。
「今日の雲雀、寝てる顔、随分と安らか。いい夢でも見た?」
ただ、いちいち構ってくるその態度は気に入らない。
こちらの習慣に慣れようと必死なのだろうが、いかんせん、面倒見が良くない雲雀には煩わしかった。
(…橘が居れば、面倒を任せられただろうけど)
生憎、倫子は鍾鬼と入れ違いに雲雀のパートナーから外れた。
はじめは特別措置として真醍とペアを組んでいたらしいが、先日、真醍も島へと一時帰国したと聞いたので、今はもう一人でいるだろう。
以前から落ちこぼれとして疎外されていたが、雲雀の領域から外れてからは、それも更に酷くなったと聞く。
(やられても決して負けようとしないから、尚更)
後先考えず突っ走る馬鹿を思い出して、自然と溜め息が漏れた。
鍾鬼が不可解そうに首を傾げ、そんな雲雀を見ている。