AEVE ENDING
腕の中でびくびくと痙攣する体を、鍾鬼はより一層、強く抱き締めた。
腕の中でひとりでにびくついている体はまるでそういう玩具のようにびくりと跳ねては血を撒き散らしていく。
「脆過ぎる…。こんな状態で使い物になるのか?」
またひくりと体が跳ねた。
見れば、意識を失った無様な体。
(憐れな生き物…)
憐れ、な。
「橘、橘…」
目を覚ませ。
まだ劇は幕を閉じていない。
鍾鬼の筋書きは、まだ完璧ではなかった。
「…、」
ふ、と瞼が震える。
さ迷う眼球が鍾鬼を捉え、見る見るうちに見開かれていく様は喜劇だ。
「っ、…、!」
叫ぼうとしたらしい。
けれど先ほどの圧迫で喉をやられたのか、必死に開かれた口は間抜けな空気の漏洩を音にしただけだった。
血だらけの体が、鍾鬼から離れようとする。
「、橘…」
大人しくしろ、と言う必要もない。
生き血を抜かれた体は、死人のように自由がなく、抵抗すらならない、人形同然。
「もうすぐ…」
それを腕に抱いて、数刻。
痺れるような痛みが、酷く強烈に存在感を露わにする。
(───お出ましだ)
洗練された気配が、この澱んだ空気を外へ外へと押しやりながら。
それに倫子も気付いた。
道化のように無様な眼が、今にも泣き出しそうに歪む。
「過去をばらされたくなければ、…俺に従うことだ」
(───そうしなければ、お前はまた、あの姿に逆戻りしてしまう)
そうテレパスを流し込めば、恐れる全身はまるで操り人形のように思うが儘に動いてくれる。
脅える眼は鍾鬼に向けられるものではなく、ひたむきとも呼べる純粋さで、過去を畏れていた。