AEVE ENDING






「…本当に、憐れな生き物だ」

遠い異国で見つけた、興味をそそる二つの事象。

絶対的な力を持つアダムと、まるで愚かな人間のようなアダム。

格差はそれこそ、天と地ほどに離れているというのに、対等に在る者達。


(こんな形じゃなければ、お前は神をどう思っていただろう)

もしその身が生粋のアダムならば、他のアダム同様、同族の神に恋い焦がれていただろうか。




(望まれないという事実は、変わらないか)

―――倫子の眼差しは、「それ」に気付いたその時から、常に回廊に向けられていた。

そういえばと、見渡した瓦礫の山の下で、倫子をいたぶっていた下劣なアダム達は息も絶え絶えでいることだろう、と考える。

(…本来ならば、触る資格すらない)

       ··
贋作であろうがこれは唯一無二の完成品なのだ。

───この小さな体は、下等な自我に屈服されるが為に創り出されたのではない。



「……、だからこそ、憐れなのか」

飛べない鳥は檻に入れられ、愛でるためにある。






―――カツ…。




「そうは思わないか、雲雀」

耳につく、聞き覚えのある靴音。

(…穢れ落ちた私を裁きに訪れる絶望の音)

痛みに痺れる体を鞭打って、視線を上げた先に。



「…一体、何事なの?」

緩やかな睫毛の弧が、白磁の肌に気怠く落とされていた。
薄い唇を不機嫌そうに閉じたまま。

(…相変わらず、無表情だなぁ)

自然、頬が綻びそうになるが、痛む筋力がそれを許さない。

(…あぁ、でも)

ひば、り。

(……雲雀、だ)

真っ黒な髪が夜風に揺れている。
まるで、暗闇に同化していくように。

(雲雀…)




「随分だね、橘」

雲雀の視線がこちらに傾く。
訝しげに顰められた眉が表すのは、不快、か。


「修羅にしては随分と遅かったな」

倫子を抱きかかえたままの鍾鬼が顔を上げる。
下から挑発的に見上げてくる眼に、修羅を畏れる色は見られない。

「…君、いつからそんな流暢な口がきけるようになったの」

なんてことはない、と雲雀がそう口にする。
相変わらず、動揺というものを見せない男だった。




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