AEVE ENDING
「解らなくても構わないが、我々はこの女は使えると判断した。詳細は語らないが、この腐敗した世界の頂点に、我々誇り高きアダムが立つための足がかりに利用できる、と」
語りながら、鍾鬼の唇が倫子の傷を辿っていく。
それに抵抗すら出来ず、倫子はされるがまま、雲雀の視線に曝されていた。
(…最悪だ、)
それでも変化すらないあの孤高な眼に、自分の愚かさをまざまざと突きつけられている。
耳元で、鍾鬼の低い笑い声が木霊していた。
痛みと苦しみ、羞じらいがない交ぜになった脳髄が、全てをとろかしている。
「───この話をしたら、彼女も、大いに喜んでくれた」
鼓膜を震わす近距離での囁き。
雲雀に向けたものというより、倫子を牽制するもの。
思いもよらぬ言葉に、小さく息を飲む。
「…、」
雲雀が眼を細める。
それは、真偽を確かめるためなのか。
(雲雀、…)
「…っ」
そうして倫子が、違う、と雲雀にテレパスを飛ばす前に。
(───従わなければ、お前が秘めていたい過去とやらを今ここで洗いざらいぶちまけさせて頂く)
脅迫が、全てを躊躇させた。
狙いに気付いた倫子を拘束するように抱き止め、倫子が躊躇したその隙を縫って、鍾鬼は更に続ける。
「───君は気付かなかっただろうが、彼女はウンザリしていたのだ。…愚かで屑な虫螻共に、理不尽な理由でいたぶられることに」
イヴと呼ばれるこの身は、他のアダムから見れば恰好の的となった。
弱者が更なる弱者を貶め痛めつけ、胸中の不安を安堵へと換える、その愚かな連鎖。
驕り高きアダムだからこそ、一族から出た恥を放置しておけない。
(…、)
反応しない倫子に、鍾鬼が至極満足げに息を吐いたのが解った。
―――それだけじゃない。
鼓膜を揺るがす嘘を吐く声は、倫子にとって真実だった。
「君のような気高い生き物と、天秤にかけられることにも」
雲雀の視線がただ静かに流れてゆく。
「、」
捉えられる双眸。
背後に空いた、外に直結した大きな亀裂と穴から入り込む夜風とともに、倫子を冷たくさせる。
(…ひば、り)
心臓が、今にも。