AEVE ENDING






鍾鬼はくつりと笑むと、もう一度、一歩下がる。

もう一歩下がりでもすれば、吹き抜けになった壁の外―──崖下に落ちる。



「そろそろ帰路に就く。双子、後は任せ、」

そう唇が紡いだ瞬間、鍾鬼の真横に倒れていた柱が砕け散った。
破片が砂のように散るほど、砕かれた、それは。


「ご無礼を、雲雀様」
「どうぞお心をお沈め下さい」

双子の慰みすら苛立たしい、と唇を閉じて。


「いつか、必ず」

動きを封じられそうになる、酷く冷たげな、眼が。

「肉片も残らず、処分してやる」

感情を一切含まない、あまりにも冷酷な、音。



「ならば、心待ちにしていよう。その時、果たしてこの女がこの姿のまま保たれているかどうかは、保証しないがな…」

倫子のぶらりと揺れる腕を取り、みしりと、骨を鳴らす。



「この体を、不浄に相応しいものにすることも贖罪の意味を持つ」

ぎ、と関節が鳴いた。

「…、っ」

その痛みに、意識を落としている倫子が無意識に呻いた。

「っ、倫子!」

アミが悲鳴を上げた。

それに呼応するように、倫子の腕から鍾鬼の手が離れる。
与えられる痛みから解放され、倫子は安堵したように脱力した。

痛みから解放された顔が、穏やかに瞼を揺らす。

その顔が、再び痛みに歪もうとも―――。



「…構わない。橘は橘に、変わりないから」


(求めるのは、外装じゃない)

揺れていた潮風が凪ぐ。
静かな、静かな空間に響く、血が滴る音。



「果たして橘が、それを望むと思うのか?」

絶望の淵に立つ憐れな子羊は、その身を貶められて痛みに肩を抱き、緩やかな祈りに、ただ、罪に胸を焦がし、───そして鳴く。





(…かえりたい、)

なにも知らなかった頃に。

(かえりたいと、)



―――絶望の淵で、願う。







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