AEVE ENDING
『―――雲雀』
(所有印は既にあの醜い体のなかに在るのだから)
『雲雀、』
譲ることも棄てることもない。
あれの全てを終わらすなら、必ずこの手で。
それは罪だった。
それは手を伸ばしてはならない果実だった。
(お前は、我々人類最高の、罪の塊だ)
物言わぬ肉となった私を見て、男はそう言った。
聴覚器官は辛うじて維持されていたが、内臓を守り囲うように膨張した肉という肉により、私の視界も嗅覚も、味覚も、なにもかも潰されてしまっている。
けれど、それらの神経は生きているらしく、形状が変化した体によりそれを感じられないだけだと、奥田はカルテに冷静に書き込んでいた。
『───気持ち悪いわ、早く、殺して』
女の声がしたのは、私がチューブで栄養を点滴され始めて―――当時、肉団子のように捲れ、膨れ上がった身体は健康な人間のように口から栄養をとれなかった―――三日目のこと。
女の言葉に、奥田が苦笑気味に溜め息を吐き出す。
小馬鹿にしたようなそれは、彼がまだ若い証拠だった。
『…身勝手なことが言えますね。彼女がこうなったのは、貴女達がそれを望んだからだというのに』
奥田のその言葉で、聴覚に入り込んだ声の主の正体を理解した。
―――修羅の母親。
ヒバリの、お母さん。
『誰がこんな化け物を造れと命じたかしら。…穢らわしい』
この醜く身体を貶すのは尤もだった。
私のこの姿を見て気を狂わせないだけ、彼女はタフと言える。
…溜め息。
カルテと向き合っていた奥田が、女性へと顔を向けたらしい。
目が見えなくなってから、その他の気配に敏感になった。