AEVE ENDING
ぎぃ、と古い椅子が鳴る。
奥田が立ち上がったのか、女が動いたのか。
『これが、貴女が所望された完成品なんですよ?』
奥田だ。
心底から疲れ切っている声だった。
この頃、奥田がもっとも苦手としたのは話が通じない相手との実りない会話だった。
『―――やめて頂戴。こんな美しくもなんともないただ生々しいだけの肉塊など、望んだ覚えはないわ』
聞いていれば、随分な言いようだ。
私だって望んでこうなったわけじゃないし、騙されなきゃこんなところ、家族を棄ててまできたりしない。
(……それを無理矢理モルモットにした女が、よく言う)
───それは、愛故に、だったのか。
私の憎しみを惑わす、ただ唯一の汚点。
『雲雀』
ねぇ、雲雀。
私はあんたを、うまく憎めるのだろうか。
(…だってこんなにも、蘇る声は、)
「―――…っ、」
瞼を開けたのに、映り込む世界がはっきりしなかった。
まるで靄が掛かったように、倫子の視界の焦点は合わないでいる。
(身体が重い。苦しい…)
「…やっと、お目覚めか」
浮上した意識が、冷めた空気を感じ取った。
ぎしりと倫子が横たわったベッドが軋んだのは、背中側。
こちらの顔を覗き込んでいるらしい、垂れた長い黒髪が倫子の頬を無遠慮に撫でる。
意識ははっきりしているのに、考えがまとまらない。
(というより、考えること自体、億劫…)
一体どうなったのか、なにをどうすればいいのかも考えられないでいる。
仕方ないので、状況を把握しているであろう男の名を思い出そうとした。
「…しょー、き」
なるたけ威圧を込めて口にしたつもりが、舌足らずな声しか出なかった。
あまりの間抜けさからか、頭上から溜め息が漏れる。
「―――鍾鬼、だ。人の名はきちんと呼べ。…橘」
まるでこどもに言い聞かせるかのように柔らかな声色。それが逆に怖い。
そしてふと、体が動かないことに気付く。
左半身を下にしたまま硬直している体に、自然、眉が寄ってしまう。
(……限界に見合わない能力を、爆発して放出させたからだ)
そういえば、部屋に図々しくも不法侵入していた同期達はどうなったことだろう。