AEVE ENDING
「───おかしいと思わないかね」
発せられた静かな声はどこか憂いを帯び、その白眼は庭の陽光を纏い鈍く光を湛えていた。
「…僕には関係ない」
重厚な朱机を前に立つ雲雀の、あまりに無頓着な声が相対的に響き渡る。
「君は相変わらずだな」
東部箱舟理事―――幾田桐生は愉快だとくつりと笑んで見せた。
歪んだ白眼が今にも弛んだ皮膚から零れそうに張り出すが、それが落ちるわけもない。
「神に相応しい者は、その地位には無頓着のまま」
桐生の白眼が雲雀をひたりと見据える。
久々に訪れた気に入りの優秀な生徒を前に、彼の機嫌は随分といいようだった。
「この荒廃した世界に現れたアダムという偉大な存在が、なんの力も持たない人類の手足のように使われていても、いいと思うのかね」
これはいつも彼が語る不満。
人類を無力だと嘲り、アダムこそが至高の存在と断言する桐生独特の持論は、既に雲雀の耳には馴染み深い。
―――相変わらずなのは、どちらのほうか。
静かな眼を白眼に向けたまま、雲雀は小さく息を吐いた。
「興味がないと、僕は随分前から言ってる筈だけど」
合同ミッションの合間。
わざわざ西部箱舟から東部へと訪れたのは、桐生と世間話をするためではない。
開け放たれたテラスからこの豪勢な造りの、しかし決して嫌味でもない洗練された執務室を風が抜けていく。
まだ冬始め。
頬を梳く風は北風とは言えねど、やはり冷たい。
じりじりと髪を乱すその冷風に眉を寄せつつも、雲雀は改めて桐生を見た。
目的は、軽く終えれるものではない。
「───少し気になることが、あるんだ」
だから来たのだと、口外に含ませ。
「……」
何気なく口にしたそれは、桐生の白眼を思いの外、鈍く澱ませた。
「…さて、全ての画策を見透かす修羅殿が、一体なんの用かね」
机上に肘を立て、組んだ両手に顎を乗せて可笑しげに嗤うそれは、あまりにも浮き世離れした不気味さを醸し出している。
胡乱と窪んだ片目の白濁色は醜く汚濁していて、それがにぃまりと喜色を滲ませた。
この桐生と対面した人間は、総じてこの笑みに鳥肌を立てるのだ。