AEVE ENDING
(…おぞましい人の皮を被った、魔物)
───しかし今更、そのようなものに動じる雲雀でもない。
立っている雲雀と、椅子に腰掛けている桐生。
視線の差、それを利用し、わざと見下すように嘲りを返して見せる。
それを静かに、微かな笑みさえ浮かべて受けて、桐生は口を開いた。
「…まぁ、本題に入る前に報告でも入れてもらおうか。西部との合同ミッションはどうかね、我が東部箱舟が誇る、修羅殿」
それはからかいを含むものなのか、人を小馬鹿にするこの男の物言いは、その捻曲がった性根から滲む灰汁の強い癖に近い。
話題を転換させられたことに僅かな不満を滲ませつつも、雲雀は理事の言葉に素直に従う。
この男は唯一、無条件で雲雀の上位に立つ人物だった。
「…なにを、聞きたいの」
無駄なことは口にしないと雲雀が防波堤を敷く。
なにせこの男に、規格内の常識など通用しないからだ。
雲雀の牽制を受け、桐生は組んでいた手を机上のマリオネットへと伸ばす。
かしゃりと安っぽい音を立てたそれ―──まだ着色すらされていない球体関節人形は、桐生の手により力なく立ち上がった。
サイコキネシス。
アダムの能力で、本来ならば命を持たない小さな人形は、自らの力で動いているように見えた。
勿論、糸が引いているわけでも、桐生がその手で動かしているわけでもない。
かしゃり。
人形の手足が、磨かれた朱机の上を不気味に這う。
「我が校の飼い犬達は、西部と仲良く……などと生温い真似はしていないだろうか」
かしゃり、
「下手にぬるま湯に浸けて、使える駒を無駄にはしたくないのだがね」
まさか理事が生徒にそのような言葉を向けるとは、さすがに誰も思うまいが。
しかし誰の目も気にせず、時には本人達の前ですら、公言してしまうのが、この男だった。
「あんなクズ共、駒にすらならないでしょ」
教育者にあるまじき桐生の言葉を非難するどころか、更に貶める青年が、ここに。
「───意味を履き違えているな。あれらはただの捨て駒。一度使えば、後はもう塵になるだけだろうに」
そういう意味では、私はゴミを駒にしていることになるが。
さも可笑しいと、自らも人形のようにくつりくつりと嗤う。
それを前に、高揚する緊張感は修羅のものか。