AEVE ENDING






『…雲雀』


どこか躊躇うような、けれど傍を望む、雲雀を慕う声、ではない。


『、…お前なんか知らない…っ!知らないのに、もう、いや、いやだぁああ…』

その傷ついた体を抱き締めて、もがき苦しみ、嘆く、彼女を。

罪悪に、打ちのめされる。


(この醜悪で残酷なビジョンを、橘に許可なく見続けていることにすら……)

今すぐ駆け寄って、その嘆く体を抑え付けて、傷付いて濡れた頬を、撫でて。


―――そして。



『ぅ、あ、ごめ…、ごめんな、さ…ごめんなさい』


赦して、と。

なにに対しての謝罪なのか、雲雀には理解できない。

知る術すら、ない。



『…ごめんなさい、赦して、』

先程とは打って変わって贖罪の意を表す、憐れな姿に。

過去と知りつつ、手を、伸ばしてしまうのは。




「───橘、…」


空を切る指は虚しく、そしてその冷たさに、声すら届く筈もないのに。


『あんたには、あんたには解らない…っ!』

そう、悲鳴染みた叫びを、以前。

悶え苦しむ小さな身体を、無理矢理に抑え込み、一枚一枚、小さな羽根をもいで、殺してしまおうと。

剥がれゆく防壁の殻のなかで、彼女は。



『…恥ずかしい、』


───その醜い皮膚を、胎内を、恥じて。


『もう、厭だ…』

全て投げ出して、守られたい、と。

シグナルはそれこそ、手一杯、掬える程に。

必死に、警鐘を発していたのに。



(───近付くな、と)


逃げていた。

そして、畏れていたのだ。

これ以上傷つきたくないと必死に張られていた壁を、なにも知らずに、知ろうともせずに、乱暴に壊した。



(その先に、橘の終わりがあることを知っていて)



―――それは。









< 625 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop