AEVE ENDING
「主食が味噌汁と白米の馬鹿女が無垢だなんて、はじめから誰も思ってない」
嗤いながら、蛇の顔を硬い靴底で踏みつける。
ぎちりと足裏で鳴いた頬骨に、蛇は顔を歪めた。
「…どいつもこいつも、莫迦ばかりで頭にくる」
―――だから。
表情には余り出さず、憤慨を露わにする。
深く顰められた澄んだ眼が、あまりにもそら怖ろしく歪んでいた。
「死んで償え」
そのまま踏みつけた頭を潰した。
ぐしゃり。
鈍い音を立てて頭蓋骨が砕ける音が妙に小気味良い。
音もなく広がる赤い血は、濃厚に辺りに臭う。
アダム特有の、濃度の濃い、血液。
―――吐き気がする。
この醜悪な臭いは、余りにも不快だ。
「…陶酔したまま死ねるなら、君は幸せだったんだろうね」
最期までなにも見ようとせずに、ただ、自らの世界だけで生きている。
『あんたは神なんかじゃない』
だから、―――安心しなよ、雲雀。
『神様なんか、いないんだよ、どこにも』
それでも縋ってしまうのだと泣いた倫子が憐れだった。
あの不規則な鼓動故に、その身体は異様なのだと初めから気付いていて、傷を抉り痛めつけて、泣かせて、その悲鳴が心地良かった。
(やけに素直に、僕をそのまま受け入れるから尚更、)
「……、」
刻々と範囲を広げてゆく血溜まりから脚を外し、雲雀は再び回廊を進むことにした。
目的はなんの徳もない、憐れな女。
―――それで良かった。
真実も痛みも、或いは策略も不快も、彼女の意志すら、神は求めてなどいないのだ。