AEVE ENDING





「カ、はッ…!」

蛇が鳴く。
背中を強かに壁に打ちつけ、圧迫された内臓がせり上がってくる苦しさに呻いた。

随分と遠くまで飛ばされたらしい。
霞む視界で前を見れば、近付いたばかりの雲雀との距離が当初より更に開いている。


「…っ、」

ぐらぐらと揺れる視界の先にはやはり、綺麗なまま乱れない男が、佇む。

壁に磔られた状態から蛇が立ち上がれば、それに呼応するように、その男は動いた。
まるで水面を走る水鳥のように、静かに運ばれるその肢体。

かつりかつりと足音が近付くにつれ縮まる距離を前に、ほんの少しばかり、蛇は恐怖におののいた。

素直にその恐怖に身を任せ、後退れば。



「…邪魔だよ」

一言。

鼓膜に届いたかと思えば、次の瞬間には再び膝が床にめり込んでいた。

「…、」

なにが起きたのか、すぐには理解できない。


「脚の神経を一時的に麻痺させた。当分は動けないだろうね」

冷ややかに吐き捨てられた言葉に、蛇はハッと息を飲む。
この静かな回廊で、静寂が更に深くなり、耳鳴りがしていた。


この至高の存在に、呼吸すら。




「───やはり、彼女は罪深い」

無意識に零れた独白は、雲雀の耳を汚したかのように白く濁る。

そうして動けずにいる蛇を、雲雀は苛立たしげに蹴り上げた。
勢い良く跳ねた細い身体が咳き込み、喉を震わす。


「…っ彼女は、貴方が目に掛けるような存在ではありません、」


彼女は醜い。

あまりにも、あなたとは。

語る不愉快な口を閉じさせようと、雲雀の脚が再び蛇の腹を捕らえた。
その細い脚の下で、肋骨が折れる音が響く。


「…っ、ぐ」

醜く、鳴くくせに。

反抗ばかり。

雲雀はやはり不快だと眉を寄せ、澄んだ表情で蛇を見下していた。



「…っ、貴方、は、なにもかも知らなすぎるのです。彼女は、貴方が思うほど、」


―――無垢ではない。



蛇の言葉に、ふ、と笑みが漏れた。

それに反応し、見上げた蛇の目に、美しく妖艶に微笑む、神の姿。



「君、思ってたより莫迦だね」

静かに吐き出された声には、嘲りが色濃い。

見下す視線に曝されるだけで、罪に侵されたような気分になってしまう「眼」。




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