AEVE ENDING








―――冷たい。


身体をくまなく包む。
皮膚を通して揺れる。

水の中。


(…水の中、だ)

眼を閉じていても解る。
気泡が生まれて、そして消えていく音がする。

瞼が上がらない。
息ができない筈なのに、苦しくない。

頭の中、脳味噌のずっと奥のあたり。



―――泣いている。


昔の私の悲鳴に、似てる。

繰り返し繰り返し響く、鼓膜で捕らえる音ではなく、記憶の中で聞いている。


水の中。

息が出来ないのに、苦しくない。


(あれ、)

さっきも、同じことを考えていた気がする。

思い出せない。

悲鳴が聞こえる。
それから、啜り泣く声。



(助けて、)


それから。


(まだ、死にたくないのに)



息ができない。

したくもない。



壊れちゃえばいいのに。

ぜんぶ、ぜんぶぜんぶ。

めちゃくちゃに壊れちゃえばいいのに。



ガボッ…。




「、」

最期の気泡が割れる。

タイムリミット。

私が私じゃ、なくなる時間。








『い、い、たい、』

私が壊した男は、死んだ骸をそのまま、私を罪に留める鎖となった。

赤い色を手にした私が私じゃなくなっていく。
肉体がまた歪んでく、歪んでく、―――歪む。



(もう、気泡は生まれない)

巡り巡って、同じ場所に戻ってきた。


私が、私じゃなくなる時間。








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