AEVE ENDING
「…気持ち悪い」
今の今まで入室を禁じられていた奥の部屋に通されてすぐに、ロゥがそう小さく漏らした。
照明も窓もない暗い空間に浮かび上がる、青白い生々しい肢体。
黒い液体に漬けられていたせいで、全身を巡る傷痕という傷痕が浅黒く浮き上がっていた。
黒と白。
対比する色の筈なのに、闇に融けていくような。
「…気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い」
ロゥが狂ったように繰り返す。
(気持ち悪い、)
リィは、片割れの言葉に共感できなかった。
「リィ、リィ」
その瞼を下ろしたまま微動だにしない女から目を逸らし、ロゥがリィの肩に顔を埋める。
自分と同じ髪質の頭に指を絡めて、そっと慰めた。
(…あぁ、同じね)
口で気持ち悪いと嘆きながら、リィと同じに悲しんでいる。
磔にされたその肢体は、ふたりの過去そのままで、悲しくて悲しくて悲しくて、憐れ、で。
自分達が従う主が、その類い希なる能力で生身の人間を人形にしてしまうところなど、何度も見てきた。
それこそ、足腰の立たなくなった老人から、年端も行かぬ子供達が意志を持たぬただの人形に変えられる瞬間を、幾度も。
「気持ち悪い…」
泣きじゃくる寸前のロゥの声が、心臓を抉る。
抜け殻になった女の肢体を前に、赦しを乞うているのか。
「赦して、」
目の前で眠ったように動かない女とは、以前、言葉を交わしたことがあった。
双子が雲雀に初めて相間見えたとき。
リィの感知能力は、雲雀ではなくこの女に行き着いた。
あの時は理由など解らなかったけれど、屋敷に戻ると「蛇」に教えられた。
―――雲雀様の核を植え付けられた女。
―――雲雀様の存在を唯一穢す、醜い生き物。
「…僕、僕、あの話を聞いた時、赦せなかったんだ、」
白い肢体から目を逸らすようにリィの身体に抱きつくロゥが、涙声で口にした。
「雲雀様の、あのまっさらな雲雀様の、核を持っていられるなんて、なんて羨ましいんだろうって。元はただの人間のくせに、僕達アダムが欲しくて欲しくて堪らないものを、って」
拙く話す、片割れの肩が震える。