AEVE ENDING






ブチリと指先に感じた違和感に、桐生はさも愉快だと口許を歪めた。

先代の趣味で構内に建てられた、大聖堂と呼ばれる西洋の建築物。

ステンドグラスが淡い雲の発光に美しく揺れている。
その光を浴びながら、先程痛みを伴う違和感を感じた指先に目をやった。


(―――傀儡を破ったか…)

さすが、と褒めるべきだろう。

あの華奢な体に縦横無尽に張り巡らせた能力糸を神経と違うことなく切り抜くのは、そう容易ではない。

(雲雀め…)

くつり、と唇が歪む。
よもやそのような技術まで手にしているとは。

(益々、欲しい…)

あの美しい姿も、精神も、内にたぎる神の力も。



『雲雀は、あんたのものじゃない!』

強烈にぶつけられた言葉は、ふてぶてしいまでに強く。

「…ふん、」

(思い上がるな)

既に手のうちから離れた醜い人形の言葉なんぞに興味はなかった。
揺らめく極彩は桐生の皮膚を通し、その色を濁しては空気中に消えていく。

(私が造り出したと言っても過言ではない、傷だらけの最高傑作)

それがよもや、神の落とし子に見初められるとは。

(雲雀め、)

本来なら、その強く澱んだ眼差しは私だけに向けられる筈だったのに。

―――それが。


『橘…』

その淡い声で、醜い分身を呼ぶ。



「橘、倫子…」

今すぐ、その歪んだ体をバラバラに切り裂き、薬品に浸かりきった醜い体液を搾り取って、呼吸を止めて。





「―――生憎、橘を殺すのは、僕の役目だよ」

背後に突き刺さるその宣言は、正にこの思考を読み取ったもの。
それが誰か、考えなくともわかる。


「随分と器用になったものだね、雲雀」

振り向けば、その冷たい美貌が眼球を焼く。
背後には、先程まで掌中にしていた人形が立っていた。


「所有物に他人の唾が付けられたままだなんて、不愉快極まりないからね」
「ツバって!」
「…黙っててって言ったでしょ」
「ぃ、っでぇ!」

馬鹿馬鹿しい。
仲睦まじくただ絡み合うふたり、に。

耳障りだ。





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