AEVE ENDING
『私のせいでは…』
狼狽えるように溢す男があまりにも虚しく、嘲笑が漏れた。
『えぇ、貴方のせいではないでしょうね…』
裏で手を引いているのは、私なのだから。
貴方はただ、踊らされただけに過ぎない。
『彼女は、生きて…?』
おぞましい、と言いたげに「彼女」から視線を外す。
一昨日、暴れたせいでメスで引き裂かれた足首の傷が化膿して白い毒を孕んでいた。
『―――生きていますよ。あんな成りでも、心肺機能は正常に作動していますから』
ただ、狂うのは時間の問題だと思われた。
奥田という若い研究員とはよく言葉を交わすらしいが、他の前では滅多に言葉を吐かないらしい。
吐いたとしても罵詈雑言…ここまでされてまだ悪態をつく余裕があることが驚くべきことだ。
『…狂人になった場合、桐生さん、あなたはあれをどうするおつもりですか』
なにかを危惧するように、やはり遠慮がちに尋ねられたそれに失笑する。
『狂人になった場合…、そうですね』
―――アレを見て、まだ正常なヒト扱いをする。
痛みを知らぬ、温室育ちの腑抜けが。
『私のコレクションの一部にでもしましょうか…。あのような状態で生命を維持している生物など、そう簡単には手に入りませんからな』
―――それに。
『あれは血を好む女でしてね…。実験と同時進行で殺戮本能を強化するテストを行っていますが、なかなか…』
くつ、と喉が鳴る。
真意に気付いたらしい男のその青白い肌から、音もなく色が失せた。
『殺戮、本能…?』
化物と呼ぶに等しい女の、狙うべき獲物、は。
『ヒバリヒバリヒバリ…と、毎晩、譫言のように繰り返していますよ』
そして先日与えた、殺すための罪人。
殺戮機能を重視したそのテストの為だけに連れてこられた男を、彼女は。
『…惨いものでしたよ。クスリのせいで意識が定まらず、理性を保てない故に顕著に現れる、ヒトの残虐性とはね』
ヒバリ、と。
その名を口にしながら、少女は罪人の喉元に噛み付いた。